2013年1月2日水曜日

Regard du hiver まなざし

 私は私を繰り返しコピーしてきた、別れの度に粗くなり、ノイズにまみれながら、でも常に一つの別れを繰り返していた。繰り返している。繰り返していくだろう。たった一つの別れの言葉を誰にも言えないまま、崩れ落ちるまで繰り返す。「            」。今では別れの言葉も長く乱れて余分な情報が鎖のようについて垂れ、未来の私が確実にそれを読み取る事が出来るかはわからない、まだ今は未来ではないから。“今、今、今!”という風が吹きすさぶ嵐が丘で、私は嵐に見つめられている。

 嵐の中で聞こえるのは北風の歌……「私は貴方!貴方が私!」古びたベランダから手を伸ばして北風を——ひらめく薄物のような——掴もうとするのだが、金の輪を幾つも嵌めた私の指にも首にも、絡む事なく私を閉じこめる。ああ、私が私と約束する為の金の輪は、私の指に、首筋に、這って絡み付くように増えてしまった。こんなにも愛おしい世界との、永遠の婚姻の為にと選び続けた金の輪は、私を地に留めている、それが、孤独という事だ。

 私はいつもおまえの頬に口づけをする。返礼におまえは私の頬に口づけをする。

 すっかり、私は繰り返し書き続けてきたただ一つの別れの物語の、書き方を忘れてしまった。執念深く骸に取りすがり、肉が崩れ去った後の骨を腕に抱き続けていたというのに。その骨も既に砂になってしまった。うてなには砂は留まらない。

 指先からこぼれ落ちるのはもう、文字ではなくなってしまった。涙も涸れて血も濁り、滴り落ちるのは時だけだ……。別れの言葉は私から、それは風の音に紛れて誰にも聞こえないだろう。

その花をつままくときは とことはにすぎさりにけり

子供の頃、多分まだ年齢が一桁だったころ、れんげ畑でイベントがある(そう大それたものではないと思うが、田舎には娯楽がない。子供の頃は、嘘みたいに続くらしい人生に退屈していたし、それはわたしの顔に常に出ていた)とどこからか聞いてきた母が、家族で出かけようと計画をした。心踊る計画ではな...