スイミングプールのナイト会員になって四年ほど経つ。ナイト会員とは夕方のある時間からプール終業までの間、入水することができる会員のことで、昼間に入りたければデイ会員にならなければならない。もちろん両方の会員である人もいる。この時間には大抵、仕事や家事をひと段落させた人も来る。特定の誰かと熱心な会話はしないけれど、なんとなく顔見知りの人がいて、なんとなく隣で泳いでいる気配を感じながら、自分も黙々と泳ぐ。そういう風通しの良さを気に入っている。
スイミングプールに通うようになってから、多い時で週に二、三度は泳ぎに行くようになったが、子供の頃はプールが嫌いだった。嫌いだから当然泳げないし、泳ごうという意思もなく、浮かんでいるだけだったし、可能な限りさぼった。とにかく水回りがだめだった。熱湯のような真水のシャワーも、腰から下をつける冷たくて臭い消毒液槽も、直射日光で焼けたアスファルトの上を裸足で、校庭にあるプールまで歩かされるのも、ひんやりと湿っていて苔むしている幅広の外階段も、濡れたコンクリートのプールサイドを歩くことも、股の間へ水着から伝っていく生温いプールの水も、どれもこれも恐怖だった。足から這い上がってわたしを侵食していきそうな、得体の知れない恐怖と対峙するのは、子供ごころにはたいそう負担だった。
ある日、とうとつに平気になれる予感がしたので、スイミングプールの会員になることにした。スイミングプールに泳ぎに行けるようになった、ということはわたしにとって、深い峡谷にとうとう橋が架かったような、そういうことなのだった。