夜に車で田舎町の広い通り(一応は国道なのだ)を走るのは本当は好きだ、小さな町の車道は割合、広々していて心もとなくなるけれどそれは車の外にいたらであって、車の中なら安全で安心だからだ。もちろんそんな事を考えるのは、ほんの一瞬より長い間ーー恋に落ちる間とでも言うんでしょう?ーーだけのことだけれど。冬へ向かう頃、雨の降る夜に車に乗ると、まるきり宇宙船の脱出ポッドに乗り込んだようで、少し心細く同時に深い安心を、運転席に座る度に味わっていた。運転席に座ってエンジンをかけると、わたしの全ての運命を託した一人乗り用の宇宙船ポッドが、宇宙空間へ射出されて漂っていく気分。スリーツーワンゼロ!その日は霧雨で、フロントガラスには常に細かい水滴が吹き付けられていた。街灯に照らされると霧雨はどれも銀色に輝き始め、それは本当に宇宙船の窓から見る星々のようだったんだ。
春へ向かう頃(それは今なのだけれど)宇宙船の脱出ポッドだった車は、清潔で孤独な寒さが溶けてしまった外気の中では潜水艦へ変わってしまったみたい。春の息苦しさは水のようだものね。未だメインタンク・ブローの命令は無し。ベント開きっぱなしで、わたしは春の水底へ沈んだまま進むことになるでしょう。今夜はそんな事を思いながら、車を運転していたの。相変わらず一人でね。
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