2017年4月5日水曜日

第十二レース(場外馬券売り場)

「なんというかエキセントリックで」
 エキセントリック!今時その言葉を使ってわたしという一人を定義しようとするなんて、わたしの方が驚きだ。わたしに向かって真摯な態度を取ろうとしているのはわかった。何を言いたいつもりなのか、もじもじではあるがゆっくりと言葉を選ぶその態度こそがわたしを、苛立たせる。面白いことを言うのね、わたしは初めて、あなたの冗談で笑えそうだ、心から。是非その続きを聞かせてくださらない。

「……御し難い」
 自分は騎手で、わたしは馬だという意味でいいのだろうか?わたしたちは楽しく走るコンビでありたいと願っていた。だからこそわたしはあなたに騎手であって欲しがったことは一度もないし、あなたもそれを知っていたはずだと思ったのだけれど。よしんばわたしが才能のない暴れ馬だとしても、あなたは、まったく無能とは言わないけれど優秀な騎手ではない。優秀な騎手ほど、馬にお任せ、馬七、人三、あわせて十。走る馬は走るし、走らない馬は何をしても走らない。才能のない暴れ馬を御せるのは(しかし勝ちは難しい)、現役なら東西で約二名しか思い付かない。まさかとは思うのだけれど、あなたは自分がその騎手たちに並んでいるとでも言うのだろうか?

 こういうことを言いたがる相手は、わたしの正面にいながら必ず視線を外す。今わたしが正面からあなたを見つめている態度に対して、まるで狂った馬がいて、その馬は蹄で地面を掻き、突進しようとしている、目を合わせると隙を生む、と思っているように見える。それも間違っているとは言わないけれど。何故ならわたしはいつも黙って行うから。手元のストローの袋を所在無げにもてあそび、汗をかき始めたアイスコーヒーのグラスを傾け、唇を湿らして次の語が出てくるのをあなた自身も待っている。それがあなたの誠実さだ。わたしはいつまでも過去にこだわっていて、奔放でしかいられないわけではない。それはあなたがわたしをそう定義した瞬間からであり、あなたの中での小さな変化であり、常に黙って”受け入れている”ように映っていたわたしの中では、だいたいいつも何も変わっていない。

 いつあなたが(強いて言うなら凡庸で、派手な勝ち鞍もないが落馬もしない)騎手になって鞭をくれ、いつわたしが(出走ゲートに派手に体当たりし、レースをかき乱す)暴れ馬になったのだろう。今日はわたしたち二人の引退レースになるとでもいうの?わたしたちはいつも二頭の裸馬だったというのに。そして並びながら前に後ろに走っていたのに。(了/編集4.7)

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